東京証券取引所カーボン・クレジット市場の開設から1年。
あるカーボンクレジットの価格が、2倍に跳ね上がった。
この価格高騰が、経営リスクとして浮上している。
クレジットの買い手が増える中、圧倒的な売り手不足が背景にある。
2025年を自社のカーボンニュートラル達成年とする企業がクレジットを買い増し、国は26年度から、排出量の多い企業に排出量取引制度への参加を義務付ける。
需給がこのままひっ迫すれば、価格はますます高騰しかねない。
戦略なきクレジット調達はコスト上昇やウオッシュを招き、経営に影を落とす。
クレジットを巡るリスクに対処し、安定的に調達する戦略が必要だ。
武田薬品はリスク管理を徹底、エネルギー業界も警戒
プロジェクトの質を見極めよ
自社の削減目標の達成を目的に、既に調達を進める企業もある。
クレジット調達を巡るリスク管理や、販促に使う事例を見ていこう。
武田薬品工業が、2024年度からカーボンクレジットを使った排出量の相殺を止める――。こんな報道が脱炭素に取り組む企業に衝撃をあたえる。
同社は19年度以来、毎年カーボンニュートラルを維持し、また日本で有数のクレジット購入者である。
ここ数年、スコープ1、2、3の合計排出量は400万〜500万tほど。その多くを、民間団体が運営するボランタリークレジットで相殺していた。
その武田薬品工業が排出削減を優先する方針に転換する。
「当時はカーボンニュートラルが先進的な目標だった。今は当社がバリューチェーン全体で40年までに排出のネットゼロを目指すことが、科学に基づく温室効果ガスの削減目標(SBT)とより合致している」と、同社でエンバイロンメント&サステナビリティグローバルヘッドを務めるジョハンナ・ジョビン氏は話す。
一方でクレジットの使用は続ける。削減目標の設定を企業に求めるSBTイニシアチブ(SBTi)は排出量の90%以上は自社で削減するよう求めるが、残りは相殺を認める。武田薬品工業では、森林の破壊や劣化を抑制する「排出回避・削減系」から、マングローブ林の回復などの「炭素吸収・除去系」の事業のクレジットへ、徐々に移行する計画だ。