排出量取引、年10万トン以上の企業に義務化 300〜400社

カーボンオフセット

2024/11/19 18:00 by 日経新聞

政府が主導する排出量取引が2026年度から本格的に始まる

政府は2026年度に本格的に運用を始める排出量取引について、二酸化炭素(CO2)が年間10万トン以上の企業に参加を義務づける。排出量の大きい電力会社や鉄鋼、化学、運輸業をはじめ300〜400社が対象となる見込みだ。企業に欧州など世界基準の取り組みを求め、国際競争をリードする脱炭素の技術開発を促す。

政府が近く開く専門家会合に制度設計の大枠を示す。これまで政府は一定規模以上の排出が多い企業に参加を義務付ける方向で検討していた。基準を企業単位で直接的な排出量10万トンに設定すると、国内全体の排出の6割程度がカバーできる。

取引制度で先行する海外では、排出量のカバー率が欧州で4割、韓国で7割だ。日本は欧州をはじめとする海外並みの参加義務を課す。

政府が運用するグリーントランスフォーメーション(GX)リーグによれば、排出実績が10万トン以上の上位にはJERAや日本製鉄三菱ケミカルグループなどが並ぶ。自動車ではトヨタ自動車が基準を上回り、マツダが10万トンを下回る。

排出量取引は炭素に値段をつける「カーボンプライシング」の手法の一つだ。23年度から企業が自主的な削減目標を設定する仕組みで試験運用していた。26年度から参加の義務付けや目標設定で政府の関与を強め、排出削減の取り組みを促す。

政府が企業に対し、毎年度の排出量を定めた「枠」を無償で割り当てる。企業は枠の範囲内で排出していれば負担は生じない。排出実績が少なくなって枠が余れば、枠が足りない企業に売却したり、将来に繰り越したりすることができる。

枠を超えて排出した場合には他社から枠を買ったり、排出削減効果が認められたクレジットを購入したりすることで埋め合わせる必要がある。一定の期日までに埋め合わせができないと、解消できない超過分に応じた負担金をペナルティーとして支払う仕組みにする。

排出枠の売買についてはGX推進機構が27年度に公設市場を開設し、東京証券取引所が運営を担う見通しだ。市場外での相対取引は認める。

制度導入で先行する欧州では、排出枠のデリバティブ(金融派生商品)取引が行われることで取引の流動性が確保された一方、金融市場の影響で価格が乱高下するといった弊害もあった。日本では企業の脱炭素の取り組みに予見性をもたせる狙いから、当初は現物取引に限る。

こうした枠組みを規定するため、25年の通常国会でGX推進法の改正を目指す。

産業界にとって排出量取引の義務化はコスト増につながる。先行導入している欧州はサービス料金に跳ね返っている。

独ルフトハンザ航空は欧州の排出量取引(EU-ETS)など、環境対応に必要な資金を確保するために「環境コストサーチャージ」を導入する。25年1月以降に欧州連合(EU)27カ国や英国、ノルウェー、スイスを出発する航空便に適用する。

日本の産業界もコスト増を懸念する。製鉄会社で構成する日本鉄鋼連盟は「製品に環境プレミアムを価格転嫁して回収する仕組みが必要となる」と主張する。国内製造業の二酸化炭素排出量の3分の1を占める鉄鋼業は、製造工程の化学反応に石炭を使うため脱炭素技術の導入が難しい。

コストが膨らめば海外企業との競争力が低下する懸念もある。化学業界は業種別でみると鉄鋼業に次いで2番目に排出量が多い。旭化成は「諸外国の制度との調整がなされ、国内産業が不合理な競争環境に置かれないようにしてほしい」と求める。

企業に負担が生じるかどうかは、政府が割り当てる枠の水準によるところが大きい。

枠の水準を決めるにあたっては、電力や鉄鋼、化学など排出量の大きな業種を中心に業種ごとに目指すべき基準を設け、それに基づき個社に枠を割り当てる。それぞれの業種のなかで生産量に対する排出量が少ない上位企業の水準を参考に基準を設定する。

GX債を活用し脱炭素技術の開発をしている企業が水準を達成できない場合も、一定の追加枠を割り当てる。企業が追加コストを支払って枠を埋め合わせるよりも、技術開発に資金を投じることを優先させる狙いがある。

政府は温暖化ガスの排出を30年度に13年度比46%削減する目標を掲げている。企業に排出削減を求めるのは、この目標を達成するためだ。脱炭素技術を開発する重要性が一段と高まるとともに、排出削減の取り組みに伴うコストを消費者も含めて広く分担する市場づくりの視点も欠かせない。

政府はカーボンプライシングを10年間で20兆円発行するGX経済移行債の償還財源と見込む。排出量取引は当初は企業に無償で排出枠を割り当てる。33年度には電力会社に対して段階的に有償で割り当て始め、これを償還財源にする想定だ。

排出量取引
温暖化ガスの削減を進めるための仕組み。日本では2026年度から政府が企業に対し、排出枠を無償で割り当てる制度が始まる。先行する欧州連合(EU)は05年に始まった。
省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用、森林管理による二酸化炭素(CO2)の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度もある。「Jクレジット」は東京証券取引所が23年11月に開設したカーボン・クレジット市場で取引されている。

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