カーボンクレジット市場で価格が急騰!!

カーボンオフセット

CO2の削減価値を売買するカーボン・クレジット市場で、価格が急騰している。企業の脱炭素経営に欠かせないクレジットの調達が、経営リスクとなり得る。

 開設から約1年がたつ東京証券取引所カーボン・クレジット市場。当初それほど注目を集めていなかった同市場では、1年で約2倍という価格の上昇がひっそりと進む。これが多くの企業に経営リスクとして浮上してくる可能性がある。

 カーボンクレジットは、CO2などの温室効果ガスの削減量や吸収量を取引するための仕組みだ。企業がクレジットを購入してその削減・吸収量分を無効化することで、自社からの排出量をその分だけ相殺(オフセット)できる。

 企業は国や投資家から排出量の削減を迫られているが、再生可能エネルギーの自家発電設備を設置したり、低排出の燃料に転換したり、製造プロセスを変更したりといった対策を取るには時間や費用がかかり、実施が困難な場合もある。こうした状況でもクレジットを活用すれば、削減できたと見なされる。

 例えば温暖化対策推進法(温対法)に基づく温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度(SHK制度)では、政府主導の「J-クレジット」を使って排出量を削減することが可能だ。大手企業や外資系企業などを中心に、工場や店舗などの拠点の脱炭素化に活用されている。自主的に設けた2025年や30年の削減目標を達成するために利用を検討し始めた企業も多い。

需要に対して供給が不足

東証カーボン・クレジット市場は、クレジット取引価格の透明性や流動性を高め、取引を拡大するために開設された。価格が急上昇したのは、取引量の6~7割を占める再エネ電力由来のクレジットだ。23年中、1t当たりの平均価格は3000円前後で推移していたが、24年6月頃から値上がりし始めた。排出量の報告制度に対応するため、駆け込みでクレジットを購入し、排出量を削減した企業が相次いだとみられる。企業に環境対応を質問して回答を格付けするCDPや、SHK制度への報告時期と重なり、ある程度の価格上昇は事前に予想されていた。ところが、報告期限後の7月以降も再び上昇し始め、11月には同約6000円に跳ね上がった

再エネ電力由来のJ-クレジットは、SHK制度への報告だけでなく、グリーン電力証書のようにも使うことができる。他社から供給された電気や熱の使用に伴うCO2排出を再エネで賄ったとみなされ、使い勝手が良い。CDP質問書への回答や、科学的知見と整合する削減目標(SBT)のほか、企業活動に使用する電力を100%再エネで賄うことを目指す国際イニシアチブ「RE100」の報告に利用するといった使い方が確立している。

 電力大手と新電力の計61社で構成する電気事業低炭素社会協議会によれば、23年度の国内の発電所からのCO2排出量は速報値で3億1100万t。これに対してカーボン・クレジット市場が開設以来、24年11月22日までに売買成立した再エネ電力由来のJ-クレジットは約39万tにすぎない。直接比較できる数字ではないが、需要に対して供給が圧倒的に不足している。

 クレジットの創出や調達、仲介などを手掛けるバイウィル(東京都中央区)CSO(最高戦略責任者)の伊佐陽介氏は「CDPに回答するための調達が集中したことで価格上昇の第1波が訪れ、それをきっかけにこれ以上価格が上昇すると調達が難しくなると焦りを感じた企業が購入し、価格上昇の第2波となったのではないか」とみる。省エネ由来のJ-クレジットまでつられて価格が上昇したことで、クレジットの調達に危機感が高まりつつある。

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